ESG(非財務情報)

ESG鼎談

取締役 副社長執行役員 上田 博 / アセットマネジメントOne株式会社 責任投資グループ チーフESGアナリスト 櫻本 惠 氏 / 取締役 専務執行役員 新沼 宏

アセットマネジメントOne株式会社のチーフESGアナリストである櫻本氏をお迎えし、時代の変化に対応し、進化を続ける当社グループのESG経営について、語っていただきました。

住友化学の進化し続けるESG経営

住友化学のESGの考え方

新沼 まず、当社のESGの考え方を簡単にご説明したいと思います。当社ではサステナビリティ推進基本原則に則ってサステナビリティの実現に取り組んでいますが、その根本にはCSV(Creating Shared Value)の考え方があります。「住友の事業精神」の一つに、住友の事業は、住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならない、という「自利利他 公私一如」の精神があります。また、当社は、1913年に環境問題の解決と農産物の増産を目的に設立されました。まさにCSVに立脚した事業が、私たちの起源となっています。

櫻本 住友の事業精神である「自利利他 公私一如」は私の大好きな理念です。まさに今日のCSVに通じるものがありますね。社員の方とのエンゲージメントの際にも、その精神が浸透していることをしっかりと感じています。

新沼 ありがとうございます。当社の姿勢を表す象徴的な出来事をご紹介したいと思います。当社が開発した「オリセット®ネット」が、2001年にWHOからアフリカのマラリア対策の防虫剤処理蚊帳として推奨されました。これは、石油化学の技術と農業化学の技術をハイブリッドした製品で、これまでに約600万人以上の方がマラリアで命を落とすことから救われています。さらに、その売上の一部でアフリカに学校を建設するなど、教育支援に取り組んでいます。また、タンザニアに「オリセット®ネット」を生産する会社を設立し、約7,000人の雇用機会を創出しています。このように、感染防止、教育、雇用という事業サイクルをつくり、統合的な社会課題解決に取り組んできました。2016年に当社は、国連総会プライベートセクターに招かれるなど、この取り組みについて、非常に高い評価をいただきました。このマラリアという感染症対策に大きく貢献しているというシンボリックな事例が、当社グループのESG推進の旗印になっていると感じます。

櫻本 住友化学の技術で生まれたビジネスを、社会課題の解決につなげられた好事例ですね。

気候変動問題への対応

櫻本 住友化学の気候変動に対する取り組みは、国内企業の中でも先進的なものだと考えています。TCFDにいち早く賛同し、Sumika Sustainable Solutions(SSS)として認定した、環境負荷低減に貢献できる製品・技術の温室効果ガスの削減貢献量などを積極的に発信されていますね。これはすごい、というのが私の正直な印象です。また、2018年には総合化学企業として世界で初めてSBT(Science Based Targets)の認定を取得するなど、積極的な活動が極めて高い評価を得ています。ここまで前向きな企業は、他にありません。総合化学メーカーとして今まで培ってきた技術力を活かして、この社会課題に対して真剣に立ち向かっている。その真剣度合いが投資家に伝わってきます。

上田 SBTはトップ自らが継続的に検討し推進してきたもので、グループのGHG排出量を2030年までに30%、2050年度までに57%以上を、それぞれ2013年度比で削減するコミットメントを発表しています。これは実は、技術的には相当大変なことです。例えば、エネルギー効率の高いボイラーに更新するなど、プラントの生産性を抜本的に変革する覚悟がないと達成できない目標です。その大きな改善に向けて社員がアイデアを出して、工夫しているところです。

櫻本 Scope3の目標には、サプライヤーも協力しているのですか。

上田 説明会の開催をはじめ、サプライヤーとは常に接点を持ち、説明や議論をしています。前向きな姿勢が感じられますが、具体的な削減目標値の設定についてはこれからの課題です。

廃棄物問題への対応

櫻本 廃棄物問題に関しても、非常に積極的な活動がなされていると思います。2019年1月には廃プラスチックの国際アライアンス(AEPW)にも設立メンバーとして参画されています。もちろん、廃棄物問題への対応はレスポンシブルケア活動の延長線にあり、化学会社にとって積極的な活動は当然といえますが、この問題は世の中の関心も高く、私自身もその取り組みは高く評価し、関心を持っています。

上田 ありがとうございます。当社のプラスチック廃棄物問題への対応についてご説明したいと思います。3R(リデュース、リユース、リサイクル)のうち、リデュースについては、パウチ製品など食品包装材料の薄肉化を進めています。これによりプラスチックの使用量を削減できます。リユースについては、プラスチック段ボール(通い箱)などに代表されるリユース用途の製品を増やしています。そして最後にリサイクルですが、「ケミカルリサイクル」が重要だと考えています。化学反応で廃棄物を基礎原料に戻し、エネルギーを使わず触媒技術でリサイクルを可能にするものです。その一環として、積水化学工業と協働でゴミをガス化して、エタノールに変換し、ポリオレフィンを製造する技術開発にも取り組んでいます。さらに、廃プラスチックを化学的に分解し、石油化学製品の原料として再利用する技術を、室蘭工業大学と連携して開発しています。ケミカルリサイクルを推進することにより、石油資源の使用量と廃プラスチックの排出量をともに削減し、持続可能な社会に貢献したいと思います。この活動を日本発の技術として、発信したいと考えています。

櫻本 さまざまな活動を進めているんですね。お話しいただいた外部との連携は、非常に評価できる取り組みです。オープンイノベーションでWin-Winの関係を構築することは、素晴らしいと思います。

サステナビリティ推進と経営の統合への取り組み

新沼 当社は、サステナビリティ推進において、「仕組み」と「志」が大切だと考えています。「仕組み」については、2018年4月に従来のCSR推進委員会を発展させ、サステナビリティ推進委員会を設置しました。そして2019年3月には、7つのマテリアリティを特定しました。特定にあたっては、経営会議で数回かけて喧々囂々と議論しました。その上で、決して完璧ではないがとにかく決定しサステナビリティの取り組みを前進させようじゃないか、ということで公表し、現在はそれに対するKPIを設定するまでに至りました。

櫻本 住友化学のサステナビリティ推進の仕組みは、外部にも理解しやすくなっていると思います。特定された7つのマテリアリティは、とてもよく整理されていると思います。重要課題が多すぎて、どれが重要なのかわからない企業もあるなかで、7つに絞り込んだのは良いことです。さらに、マテリアリティを事業とリンクさせ、将来キャッシュ・フローを生み出していこうという姿勢も評価できます。あえて言えば、今後はKPIの開示を充実させ、PDCAサイクルを意識した運営がよくわかる情報開示を目指してほしいです。

新沼 開示面については、改善していきたいと思います。次に「志」については、特に社員の「参加」を大切にしています。2016年には「サステナブルツリー」というウェブサイトを開設しました。一人ひとりが、当社グループのサステナビリティ活動にどう貢献したいのか、世界にどう貢献したいのかを投稿するサイトです。2019年には、約1万2,000件の投稿があり、グループ社員それぞれがサステナビリティの推進を自身の問題として捉えつつあることが感じられます。

櫻本 社員のモチベーションが非常に高いことがわかります。グループ全体へのさらなる浸透を期待しています。

今後の課題と期待

櫻本 今後、住友化学に期待することは、長期ビジョンの提示です。10年以上先の技術や需要を見通して、長期ビジョンを示すのは難しいことだと思います。しかし、ぜひとも長期ビジョンを掲げ、そこからバックキャスティングした経営戦略やESGの方針を示すことにチャレンジしてほしいと思います。

上田 仰る通り、長期ビジョンは明確に示せていません。現在の中期経営計画では技術面でのトレンドは分析していますが、10~20年後の状況を想定し、皆さまに見える形で会社の方向性を示すところまではできていません。そこは今後の検討課題だと思います。

櫻本 ぜひお願いします。住友化学の課題をあと2つ挙げたいと思います。一つは、執行役員の報酬にESGの取り組みの評価が反映されていないことです。これは、企業価値向上に対して即効性がないESGへの関与が限定的になる可能性が大きいです。CSV経営の実践として、経営陣幹部の報酬には反映されていますが、より広い範囲の執行役員にも導入することで、これが長期的に企業価値向上に効果があると考えています。

新沼 実は、経営陣幹部以外の執行役員の報酬にも、要素として反映させています。しかし、ご指摘の通り外部に示せていないので、その点は工夫したいと思います。

櫻本 ありがとうございます。これは投資家が聞きたいことでもありますので、ぜひ、外部にもわかりやすく伝えていただきたいです。もう一つは、取締役会のダイバーシティの推進です。中長期的な企業価値向上の観点から、適任であることはもちろん重要ですが、やはり可能な範囲で取締役会のダイバーシティを推進していただきたいです。現在、執行役員の女性は一人ですので、これではダイバーシティは進みにくいのではないでしょうか。

新沼 ご指摘の通りです。重要課題として特定し、KPIを設定していますので、しっかり取り組んでいきます。社内から育成していき、部長・理事に女性を増やすなど候補者を拡大することで、実効性を上げていく考えです。

櫻本 化学という業態の特色として女性が少ないこともありますが、社内で育成していくことは重要だと思います。

上田 本日は貴重なご意見を大変ありがとうございました。当社の取り組みについて、非常に良いディスカッションができたと思います。これからも、今いただいたようなご指摘を含めた取り組みや情報開示の充実に取り組んでいきたいと思います。

櫻本 住友化学において、「自利利他 公私一如」の精神は、徹底的にこだわりを持って貫いていただきたいと期待しています。本日はありがとうございました。

  • 専務執行役員以上の役位の執行役員および社長執行役員の直下で一定の機能を統括する役付執行役員


櫻本惠氏 プロフィール

パシフィックコンサルタンツインターナショナルを経て、1990年3月、安田信託銀行(現みずほ信託銀行)入行。年金運用部門においてファンドマネジャー、アナリストとして運用業務に従事。
2013年10月、みずほ年金研究所において企業調査に従事した後、2016年10月より現職。環境省「環境情報と企業価値に関する検討会」「環境サステナブル企業評価検討会」などの検討委員、「環境情報開示基盤整備事業」WG委員を務める。
主な論文に「エンゲージメントを通じたESGの推進」(証券アナリストジャーナル[2018]1月号)など。一般社団法人日本気象予報士会 会員。

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